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翼なき [- 翼なき 空の彼方 -]




DRAGON QUEST 9

 * 翼なき *



 『上級天使である私に歯向かうことなど、絶対に出来ん』
 お師匠様……? 今、なんて……?
 ボクは、歯向かうつもりなんて、ありません。
 その果実を……早く天使界に戻さなければ……。
 それなのに、なぜですか?
 ぼくは、あなたを信じていた……。
 間違っていたのですか?
 ぼくは、最初から……。

 『しっかりしてよ!! ねえ!!』

 サンディ?
 いいから、ぼくの手を離して……。
 サンディまで、巻き込んじゃう……。
 離して……。
 ああ、だめだ……声が出ない。
 体中が痛くて、力が入らない。
 もう、何も見えない……。

 ごめんね……。

 ぼくの体は、もう動かせないみたいだ。
 翼もない、光の輪もない。
 ぼくは、もう天使じゃない。
 空を飛べない。
 小さな妖精さえ救えない……。
 そのまま堕ちて、消えてしまっても、どうか君は無事で……。


 『あんた天使なんだから、これぐらいじゃ死なないでしょ!? 死なないよね!?』



 * * * * *



 「う……」
 目を覚ましたとたんに、ぼくの体は痛みで動かせなかった。
 「ここは……?」
 見たことのない家だった。どうしてベッドで寝ているのか、どうやって助かったのか、まったく記憶がない。
 「ん?」
 枕元には、サンディが眠っていた。よく見ると、泣いた後みたいに瞼が腫れている。
 「ああ……そっか……」
 思い出した。手に入れた7つの果実を、お師匠さまに渡して……そのあと、ぼくはお師匠様に……。
 「うっ……うぅ……」
 どうして?
 胸が痛くて、涙が出てきた。
 信じてたんだ。
 7つの果実を集めて、天使界に戻せば、きっと世界が救われる道が開ける。
 そうなれば、ぼくを探しに出たお師匠様も天使界に戻られて、きっとお会いできると……。
 光の輪も、翼も失くしてしまったけど、よくやったと褒めてくださると……思っていた……。
 ぼくは、殺されかけた。
 いや、きっと殺すつもりだったんだ。
 ぼくも、サンディも。
 「うっ……うぅぅ……」
 苦しい、痛い、苦しい、痛い。
 体の傷よりも、胸の深いところが、痛い。
 「……もう、なにメソメソ泣いてんのよ、男のくせにっ!」
 「サンディ……? ごめん、起こしちゃっ……」
 「あたしだって、泣きたいよ!あんたが、あのお師匠さんにやられて、どんだけテンパったと思ってんの!?」
 「え……?」
 サンディも……泣いてる……?
 「あんたが死んじゃったらどうしようって……すっごく、心配……して……ヒック……」
 「サンディ、泣かないで……?」
 「ってか、泣いてんのアンタだしっ!あたしは、もらい泣きしてるだけだしっ!」
 「……うん、そう……だね……」
 「もう!!また泣くし!!」
 「ごめん……なんだかよく分からないけど、胸の奥が痛くて、止まらないんだ……」
 情けないけど、ぼくは自分の涙をコントロール出来なかった。ただ、あふれてきて止まらなかった。
 「信じてたってことなんじゃん?あのお師匠さんのこと」
 「うん……信じてたよ……だから、会えたとき、心の底からホッとしたし、すごく嬉しかったんだ……嬉しかったのに……」
 ぼくは、両腕で目を覆った。サンディが、どんな顔でぼくの話を聞いているのかは分からないけど、ぼくは止まらない涙を腕で何度もぬぐった。
 「腕の包帯がびしょぬれなんですけど」
 「うん……」
 「泣いて終わったら、ちょっとは休みなよ?」
 「うん……」
 「あんたが居てくんなきゃ、アタシ……」

 ぼくは、どこへ帰ったらいいのかな……?
 もう、天使界には、戻れないのかな……?
 でも、どうしてだろう。
 胸が痛くて涙は止まらないけれど、思ってたことを話したら、少しだけ和らいだ気がする。
 サンディが居てくれたから、かな……?
 ありがとう、サンディ。
 どうしてかな、サンディの言葉なら、信じてもいいって……そんな気がするよ……。

 「みんな、あんたのこと待ってるよ。だけど、今は、そっとしておいてあげるよ」
 「うん……ありがとう、サンディ……」






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